2012.04
不能没有你
筋☆3.5 エンタメ度☆3 音楽☆2.5 画面☆4 感動度☆4 思考度☆4
本作は、実際に台北で起こった2003年のシングルファザーによる娘との無理心中事件を元に再現した映画。
当時、彼女の親友もその事件のあった歩道橋のすぐ近くの東森新聞台に勤めていたから、印象的だった。取材に行かされたかどうかは知らないけど。
その事件の背後にはこんな話があったなんて映画見て初めて知った。
舞台は高雄の港。
埠頭の隅っこにある廃墟同然の工作小屋には、
社会のどん底に暮らす無免許操業の潜水夫という単純労働者の主人公がいて、
ガールフレンドに置き去りにされた小娘との質素な父娘二人暮らしを送っている。
娘は7歳になる年で、そろそろ小学校に通う年頃から発覚された事実が、すべての事件の発端になる。
市役所へ入学手続きをしようとしたところ、母親の不在と、戸籍上その母親が主人公と付き合う以前に夫がいたことから、
娘の扶養権は法的に母親とその見ず知らずの夫にあることが発覚。
下手したら、主人公は児童誘拐罪に問われる。
実質上の父親なのに、こんな理不尽な法律に家族がバラバラになるなんて有り得ないと主人公が憤りのあまり、
役所と闘おうと躍起し、父娘でバイクに乗って300キロ離れた台北の官庁まで駆けつけてくる。
役所はポンポンとハンコを押すだけの仕事じゃなくて、こういうややこしい縺れを片付けることが大事なんだ。
でも公務員のありがちな事なかれ主義で父娘が散々苦労し、
行き着く果てには、なんと国会近くの歩道橋で父娘二人が投身自殺を試みる羽目に。
無理心中は警察の救助で、幸い未遂に終わったが、
父は親権を奪われて二年懲役に罰せられ、娘は寄宿家庭に預けられたまま進学。
当時はリアルタイムにテレビニュースに中継された事件なんだから、
事情の分からない一般人は、あの映画に出てくる露店の前で野次る奴たちそのものなんだろう。
「うわぁなんちゅうキチガイなやつだ、幼女をさらって何しとんねん、飛ぶなら自分一人でさっさと飛べや!」みたいな。
顔のない群衆はいつも無慈悲だ。
そして視聴率稼ぐマスコミは、さらに火に油を注ぐ。
再構成されたフィクションである映画は泣けるのに、ニュースの残酷で生々しい映像にこの反応は何なんだ…。
映画の中、ムショから出た父親は娘を見たさに高雄中の小学校を探し回る姿も哀れでならない。
やっと福祉課の役員のもとで再会が許されたのは事件から三年後。
娘はそれ以来一言も喋らなかったという。
執念に近い家族の強いきずなと、
親が子どもを想う強い気持ちに、涙が止まらなかった…。